健康保険証廃止の中止と、無謀なマイナンバーカード推進策を見直すよう求める

pdfのダウンロードはこちら

 12月23日の中央社会保険医療協議会(中医協)で、オンライン資格確認システム導入の原則義務付けに係る経過措置が議論された。医療機関の困難事例に配慮を求める意見もあったものの、医療DX推進を既定路線とした議論は、示された経過措置を認容するだけに終わった。広島県保険医協会は義務化撤回署名に取り組み、国会議員要請や厚生労働省懇談に臨んできた。その中で、機器や回線、エラー時対応の未整備や医療機関の負担増という実態を放置したままに進められるマイナンバーカード政策の不合理さが明らかになった。2022年10月13日に河野デジタル担当大臣が国会審議を経ない健康保険証廃止を決定の如く発表したことで、システム整備は至上命題となり、紙レセプトによる保険請求を行う医療機関が、オンライン資格確認義務化の対象外とされていることも反故にされつつある。政府もメディアも、数人の閣僚が決めた保険証廃止を既定路線とする情報ばかり流しカード取得を煽っている。

 3月7日に、健康保険証を廃止しマイナンバーカードに一体化する関連法改正案が閣議決定され、国会での審議が始まった。参議院特別委員会で河野大臣は「マイナンバーカードを利用することで医療の質を上げる、あるいは医療機関の業務を効率化することができる」と答弁した。健康保険証での「なりすまし」防止というが、明確な数字の根拠はない。情報をつないだだけで医療の質が画期的に向上するはずはなく、健康管理の自己責任化や医療費削減への利活用、健康情報の市場化を企図するものという指摘もある。東京保険医協会は、「オンラインで」資格確認を行うことやその環境整備に係る責任を医療機関に負わせ、違反すれば保険医資格を停止するとした療養担当規則は違法であるとし、「義務不存在訴訟」を提訴。当会も会員に原告団への参加を呼びかけた。医療を歪める政策は許せるものではなく、大きな世論喚起につながるよう支援していきたい。

 オーストラリアの電子政府サービス「myGov」を構築した担当者は、全国民にICカードを持たせることは「無謀」で、紛失や盗難による悪用の危険性が高いと指摘している。ニューヨークでは個人情報盗難事件が急増し、被害総額は10年前の4倍超、ID窃盗被害者の約70%が経済的損失を被っているという。日本でも、2020年のマイナンバーに関わる「特定個人情報」漏洩は207件で、行政からの業務委託を無断で再委託する事案も発生している。マイナポータル利用規約には金融機関への口座情報の照会が同意事項として含まれ、政府がいつでも規約改定できるという条文もある。利用は国民の自己責任で政府は一切の責任を負わず、情報接続は政府の裁量というのが実態で、G7国の中でも日本のように幅広い情報を結びつけて利用する国はない。

 2015年に交付が始まったマイナンバーカード政策だが、報道機関の調査で2014~2016年度の関連事業費が、当初契約から約2・6倍に膨張し1655億9000万円に及んでいることがわかった。さらに関連事業の74%が競争を経ずに受注先を選ぶ随意契約となっており(1者入札を含めると81%)、国が発注するデジタル事業全体のなかでもその割合は際立っているという。カードの普及が進まないなか、ポイント付与に巨額の国費がつぎ込まれ、機器や回線整備にも利権構造の疑念も浮上している。

 強引なマイナンバーカード政策の下で、社会保険料や納税の義務を果たす国民が、カード不保持を理由に差別を受け、医療からも排除されることは許されるものではない。健康保険証廃止の中止と、無謀なマイナンバーカード推進策を見直すよう求める。